犬と泊まれる宿を始めた理由|古民家宿いろりの森ができるまでの不安と実際

「どうして宿を始めたんですか?」

いろりの森を始めてから、お客さまからそんな質問を聞かれるようになりました。

実は私たちは、最初から「宿をやろう」と思っていたわけではありません。
ましてや、犬と泊まれる宿をやろうなんて、移住当時は考えてもいませんでした。

今回は、丹波篠山に移住してから、私たちが古民家宿「いろりの森」を始めるまでのことをご紹介します。

目次

宿を始めたきっかけ

引っ越し前の古民家、まだ残置物でいっぱいです

私たちは大阪から丹波篠山へ移住しました。
移住した当初、夫は大阪で仕事を続けていたため、片道3時間ほどかけて通勤していたんです。

往復6時間!
朝早く家を出て、夜遅くに帰ってくる。
その間、私は子どもたちを一人で見る、いわゆるワンオペ育児に。

移住して自然豊かな場所で暮らせるようになった一方で、生活は決して楽ではありませんでした。
特に私は慣れない土地での子育てと暮らしで、いつも不安を感じていました。
すぐに心の余裕がなくなり、夫婦関係はどんどん悪くなります。

「子どもたちのためにも、このままじゃだめだ…」

そう思い、夫が丹波篠山で仕事を見つけられないか、いろいろな仕事を探しました。
でも、子育てをしながら夫婦で生活していくことを考えると、なかなか条件に合う仕事は見つかりません。

そこで、「夫婦で一緒にできる仕事を、自分たちで作れないだろうか?」と考え始めました。

最初に思いついた仕事は、実はキッチンカー。
お弁当を作って販売するような仕事を夫婦でできるかも、と考えていました。

キッチンカー購入記念に

実際にキッチンカーも購入しています。
行動は早いほうかもしれませんね。

この時点では、まだ【宿】という選択肢は全くありませんでした。

そもそも、宿を始めるなんて考えていなかった

いろりの森に古民家に住んでいた頃

私は元自衛官で、その後は芦屋で整体サロンを10年ほど経営していました。
一方、夫はサラリーマン家庭で育ち、自身もずっと会社員と勤めていました。

夫婦ともに、自分たちで宿を経営するなんて考えたことはありませんでした。

今の古民家を購入したとき、以前の持ち主さんから、「ここ、宿をやればいいよ。ははは。」
なんて冗談半分に言われたこともありました。

でも、そのときは、「いやいや、宿なんて無理でしょう。ふふふ。」という感じ。
本当に自分たちが宿をすることになるとは、思っていませんでした。

ところが、たまたま今の自宅の物件を見つけます。
犬も鶏も飼える理想物件はなかなかありません。

この家に引っ越せば、もともと住んでいた古民家が残るよね…
そこでふと、「じゃあ、この古民家を宿にしたらいいんじゃない?」と思ったのです。

夫婦でできる。
今ある建物を活かせる。
そして何より、新しく仕事を探すのではなく、自分たちで仕事を作ることができる。

そんなところから、私たちの宿づくりが始まりました。

なぜ?「犬と泊まれる宿」にした理由

これには、わが家の犬たちの存在が大きく関係しています。

古民家で住んでいたころ、わが家には、怖がりな保護犬が3頭いました。
ここで暮らすようになって、犬たちがとても自由に、のびのびと過ごすようになりました。

畳の上を走ったり、好きな場所でくつろいだり。
大阪の都会で暮らしていた頃よりも、明らかに犬たちが楽しそうに過ごしています。

そして私たち自身も、そんな犬たちを見ている時間が幸せだと気付きました。

犬が自由に過ごせることは、飼い主にとっても幸せなんだ。

旅行に行くときも、犬を預けたり、犬のことを気にしながら行動するのではない。
「今日は一緒に旅行しよう」と、人も犬も同じように楽しめる場所があったらいい。

そんな思いが、少しずつ『犬と泊まれる宿』という形になっていきました。

畳の部屋ですごすいろりと娘

もうひとつ、実際に古民家で犬と暮らしてみて分かったことがあります。

犬が畳の上を走っても、意外と大丈夫ということ。
もちろん大切に使っていただくためのお願いはあります。

でも、「犬がいるから傷つく」「犬だからダメ」と、最初から畳の部屋に犬が入るのを制限するのではなく、犬と人が一緒に暮らすように過ごせる場所にしたい、と考えるようになりました。

宿を始める前は、不安だらけ

整備される前の裏庭、できるところは自分たちで作りました

とはいえ、宿をやった経験はありません。
宿泊業については、分からないことばかりでした。

まず悩んだのが、宿泊料金です。
これだけのサービスを用意したら、この価格で本当にいいのか。

高すぎない?
逆に、安すぎて続けられなくならない?

私たちは、実は犬連れ旅行をした経験は1度もありません。

「犬連れのお客さんは、何があったら嬉しいの?」
「宿のルールはどこまで必要なのかな?」
「犬同士のトラブルは?」

そして一番大きかった不安がこちら。

「そもそも、お客さんは来てくれるんだろうか?」

古民家を整えて、設備を用意して、いざオープンして誰も来なかったら……。
そんなことを考えてしまい、なかなか自信を持てませんでした。

初めての宿オープン。不安をどうやって潰していったのか

宿泊業の経験がないのですから、分からないのは当たり前です。

そこで、とにかく調べました。
全国の犬連れOKの宿のホームページをたくさん見て、犬と泊まれる宿について情報を集めました。

  • どんな部屋なのか
  • どんな設備があるのか
  • 犬用のアメニティは何が必要なのか
  • 食事はどうしているのか
  • 宿泊料金はいくらなのか
  • どんなルールを設定しているのか
  • どんなキーワードを使っているのか

たくさんの犬と泊まれる宿のホームページをみていると、お客さんは何を求めているのかが見えてきます。

お客さんが来なかったら?
→価格・設備・サービスを研究。自分たちが提供できる価値を考えた。

犬連れ旅行をしたことがないけど、何が必要?
→ 「自分が犬を連れて行くなら何があると嬉しいか」という視点で考えた。

この価格でいいの?
→ 安くすることよりも、1日1組だからこそ提供できる時間・空間・食事などを考えて価格を決めた。

旅館業なんて自分たちにできる?
→ 分からないことを一つずつ調べ、必要な手続きや準備を進めた。
「全部分かってから始める」のではなく、「分からないことを調べながら進める」という考え方で行動

他の宿を、そのまま真似するのではありません。

こういうサービスはいいな
これは自分たちならこうしたい

多くの情報から取捨選択と創造を繰り返し、私たちの形が作られていきました。

自分たちが犬と暮らしていて感じていること、この古民家で実際に暮らして分かったことを重ねながら、「自分たちだったら、愛犬たちとどんな宿に泊まりたいだろう?」と考えていきました。

宿を始めるまでの苦労~やることが多すぎる!

「宿って、こんなにやることがあるの?」

実際に準備を始めてみると、驚くほどやることがありました。

  • 古民家のリフォームや改装
  • 必要な備品を揃える
  • 家具を選ぶ
  • 食事のメニューを考える
  • 仕入れ先を探す
  • 業者さんとのやり取り
  • ホームページを作る
  • 写真を撮る
  • SNSを始める
  • 宿のルールを考える
  • 予約の仕組みを作る
  • 料金を決める
  • 掃除の方法を考える
  • チェックインからチェックアウトまでの流れを考える

一つ終わったと思ったら、また次の課題が出てくる。
宿を作るというのは、単に建物をきれいにして「どうぞ泊まってください」だけではありませんでした。

これで本当に大丈夫なのか?

特に大変だったのが、最後まで正解が分からないことでした。

情報を発信して、反応をみて、実際に予約受付を初めてオープン当日までこれでお客さんと愛犬たちが満足してくれるのかわからないんです。

暗闇のなかを一歩一歩、震える足で進むような毎日。
今でもあの感覚は覚えています。

犬と泊まれる宿をオープンして初めて分かったこと

看板も手作りしました

実際に犬と泊まれる宿いろりの森の営業を始めてみて、初めて分かったこともたくさんあります。

こんなに自由に過ごせる宿って、意外とないんだ

これがいちばんでした。

もちろん宿にはそれぞれの良さがあります。
でも、いろりの森ではできるだけ細かなことを決めすぎず、人も犬も自分たちのペースで過ごしてもらいたい。

実際にお客様を迎えてみて、初めての場所だけど犬も人もこんなにゆったり過ごしている様子に、私たち自身が驚くこともありました。

そしてもうひとつ。

旅館業を経験したことのない私たちでも、宿を運営することができる。

もちろん簡単ではありません。
掃除も、食事の準備も、チェックインの準備も大変です。
お客様が帰られた後は、次のお客様を迎えるために一から整えます。

はじめは失敗したり足りなかったり。
今でも至らない点はありますが、一つずつ覚えていけば、ちゃんと形になっていく。

1か月、2か月、いつしか2年を過ぎ、初心者はいつしか経験者になりました。

そして何より、古民家って、こんなに居心地がいいことに気づきます。

人にとっても、犬にとっても。
時間が静かに、ゆっくり流れるような空間で、何もしない時間を楽しむ。

それが、いろりの森で過ごす時間の魅力なのかもしれないと思うようになりました。

宿泊業は大変、それでも宿を始めてよかった

保護犬いろりも看板犬デビュー

宿の仕事は大変です。
掃除をして、食事を準備して、部屋を整えて、お客様を迎える。
お客様が帰られたら、また掃除をする。

複雑で、やることが多くて、決して楽な仕事ではありません。

「ここに来てよかった。」
「また来たいです。」

そんな言葉をいただくと、やっぱり宿を始めてよかったと思います。

何より嬉しいのは、犬たちが楽しそうに過ごしている姿。
飼い主さんが笑っている姿。
そして、人も犬も一緒になって、穏やかな時間を過ごしている姿です。

「本当にお客さんは来てくれるんだろうか」
宿を始める前は、不安で不安で仕方なくて夜も眠れないほどでした。

それが今では、「また来たい。」と何度も帰ってきてくださるお客さまがいます。

これは、宿を始める前の私たちには想像できなかったことです。

これからの「いろりの森」

子どもたちものびのびと

これからも、いろりの森を少しずつ育てていきたいと思っています。

春には春の楽しみ方。
夏には夏の楽しみ方。
秋には秋の楽しみ方。
冬には冬の楽しみ方。

丹波篠山には、季節ごとに違う美しさがあります。
そんな四季折々の楽しみ方を、もっとお客さまに知ってもらいたい。

そして、いろりの森に来たときくらいは、周りの音やたくさんの情報に惑わされず、「自分にとって何が幸せなんだろう」と、少しだけ立ち止まって感じてもらえる場所でありたいと思っています。

それは人だけではなく、愛犬も同じ。

犬にとって何が心地いいのか。
飼い主さんにとって何が幸せなのか。

そんなことを、犬と一緒に過ごしながら感じてもらえたら嬉しいです。

そして私たち自身も、健康で、無理をしすぎず、笑顔で。
これからもここで、皆さんをお迎えしていきたいと思っています。

最初は、まさか自分たちが宿をやるなんて思っていませんでした。

でも、人生って案外そんなものなのかもしれませんね。
ひとつの選択から、思ってもいなかった場所へたどり着く。

私たちにとって、その場所が丹波篠山であり、この古民家であり、「いろりの森」でした。
これからも、人と犬が一緒に、自分たちらしく過ごせる場所であり続けたいと思っています。

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